貧困ビジネス

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貧困ビジネス(ひんこんビジネス)とは、貧困層社会的弱者等といった弱い立場の人々から社会通念に反して不当な利益を得るビジネス形態を指す造語である。

湯浅誠
湯浅誠

概説

この概念は、ホームレス支援や貧困問題に取り組むNPO法人自立生活サポートセンター・もやい』で事務局長を務める湯浅誠が提唱した。

貧困ビジネスを行う企業や団体(主にNPO法人)の多くは「社会的企業」を装っているのが特徴的である。社会的企業とは、本来「社会貢献と企業の利益を両立させる事」を目的としている。貧困ビジネスは、ホームレスニート等の偏見差別によって社会から孤立した者や、フリーター一人親家庭等、行政の支援が行き届きにくかったり、他に拠り所が無い人々にあえて的を絞り、支援を装いつつ利益を上げている。また、貧困ビジネスに絡め取られる事によって真に必要な支援が行き届かなくなり、いわゆる再チャレンジが困難に陥る状況も発生する。

主な貧困ビジネス

人材派遣会社

労働者派遣法規制緩和に伴い、数多くの人材派遣会社が生まれた。派遣社員は正社員に比べると収入は低く抑えられており、また、不安定な身分での労働を強いられている。更に2000年代に入ると、日雇い派遣と呼ばれる細切れの契約期間で、かつ社会保障も無い働き方も出現するようになった(これはいわゆる「ネットカフェ難民」を生み出す温床とも言われている)。そして、労働者の賃金から「マージン」と称して収入を得る(悪く言えばピンハネ)というビジネスモデルが出来た。人材派遣会社の一つであるフルキャストグループ社長会長を務めた平野岳史は、「社会現象の中でフリーターが増え、結果自分たちがフリーターに働く場を提供していると思えるようになった」と、人材派遣ビジネスを肯定する趣旨の発言をしているが[1]、しかし一方で、弱者に上手くターゲットを合わせ、儲けているようにも見える人材派遣ビジネスは批判の対象となっている。

インターネットカフェ

ネットカフェ難民 も参照 本来インターネットカフェは、他の貧困ビジネスのように社会的弱者を標的にして営業しているとは言い難い。しかし、一部にはネットカフェ難民を主な“収益源”にしている店が存在している。

埼玉県蕨市にある『CYBER@CAFE(サイバーアットカフェ)』は、「住民票登録が出来るネットカフェ」を謳い文句にしている。同店の特徴的なサービスとして、他店の「ナイトパック」より更に“長期滞在”が可能な「ロングステイ・長期滞在コース(24時間、外出自由)」がある。加えて、30日以上の連続利用者に限り、1か月3000円で「店の住所」での住民票の登録郵便物の受け取りを代行するサービスも実施している。こうした物珍しさもあって、2008年以降、多くのマスメディアが取材に詰め掛けている。同店を運営する不動産会社明幸グループ代表取締役CEOの佐藤明広は、取材に対し「ネットカフェ難民というのを耳にしまして、そういった方々のために何か出来ないのかな、と」「ネットカフェを漂流の場ではなく、人生の足場に」との思いで、この店を作ったと述べているが、同時に「新しいライフスタイルの提案」「絶好のビジネスチャンス」などとも述べており、あくまでも経営者としてビジネスライクに捉えている様子も窺がえる[2]

また、同店が所在する蕨市も理解を示し、店の住所での住民登録を許可するといった協力的な姿勢を採っている。

しかし、NHK総合テレビの『クローズアップ現代』は、同店の経営手法を「貧困ビジネス」と指摘している。まず、1時間400円の通常料金が、長期滞在すれば80円にまで割引している。その為、長期滞在の方が割安という印象を与えている。また、住所不定の為、定職に就くのが困難なホームレス状態にある人々を「住民票登録が出来る」を謳い文句に誘い集めているが、長期滞在の利用料を負担に感じる者も少なくない。その内訳は、滞在費が1920円×30日=57600円、シャワーが1回当り300円、洗濯サービスが1回当り500円、住民票登録と郵便物引き取りが月額3000円の他、飲食代も含めると1か月におよそ70000円を同店に支払う事になる。次に、同店では布団や枕などの寝具は置かず、「膝かけの貸し出し」に止め、価格も「宿泊料金」とはせずに、時間単位で表示している。その理由は、「宿泊施設」と見なされてしまうと旅館業法が適用され、「部屋を広くする」「防災管理を厳しくする」などの制約が生じる為である。

これらの指摘に対し同店店長でもある佐藤は、「(当店は)旅館では無いんですね。基本的にはアパートという考え方」「法律のギリギリの所で、という考え方をされるかもしれませんけども」などと、脱法行為を否定している。しかしながら、同店に“居住”する利用者は、就職先が見つかるまでは住所を維持し続けねばならず、ある利用者の男性は同番組の取材に対し、「(ここに)留まるしかない」「出たくても出られない」といった苦しい胸の内を明かしている[3]

現代版ドヤ・飯場

詳細は エム・クルー を参照

ゼロゼロ物件

欧州の主要国に比べ、日本では公的賃貸住宅の比率が少なく、全住宅戸数の7%に満たない[4]。この為若年層が公営住宅を新規に借りるのが難しく、低所得の非正規労働者にとっては一般の民間賃貸住宅の利用もハードルが高い[5]。このような者をターゲットに敷金礼金の支払いを不要とした「ゼロゼロ物件」なる賃貸住宅が提供されているが、家賃を少し滞納しただけで「追い出し屋」に依頼して、違法に入居者を退去させるなどの追い出し行為による被害が相次ぎ、入居者らによる訴訟も起こされている。

保証人ビジネス

詳細は 家賃保証会社 を参照

野宿者向け宿泊所

無料低額宿泊所」とは、ホームレス等の野宿者の自立支援を目的に、無料または低額で提供される一時的な住まいである。その多くはNPO法人、つまり民間によって運営されている。しかし、中には本来の目的・理念に反して、入所者の弱味や無知に付け込み、生活保護費などを搾取する団体も少なからず存在している。以下では、『クローズアップ現代』で取り上げられた埼玉県での事例を記述する。

生活保護を受給するには定まった住居が必要である為、まず、路上生活者らを「ここに入れば生活保護費を受けられる」という甘い言葉で誘い込み、宿泊所に入所させる。次に、職員(強面である場合が多い)が入所者に同行し、生活保護の手続きをさせるが、団体側が受給者の預金通帳キャッシュカードを押さえている為、受給者の銀行口座から、施設使用料(家賃)・食費・運営費・その他光熱費等の名目で自動的に送金される手続きが取られている。こうした手続きは、通常、受給者本人しか出来ないはずだが、団体側は、受給者名義の印鑑を作り、口座を開設、それらを使用していた。その為、1か月13万円ほど支給される生活保護費が受給者本人に直接渡ることは無く、様々な名目の「経費」が差し引かれた末に手元に残るのは、僅か3万円程である。また、住環境も劣悪であり、1人に宛がわれるスペースは2帖ほど、ワンルームを薄いベニヤ板で仕切っただけの“部屋”で、プライバシーも無く、部屋同士の行き来や私語も禁止するといった不可解な“規則”も存在した。不満を口にする者に対しては、「てめえらどうせ行くとこねえんだろう、このやろう」「お前たちに飯まで食わせてやってるし、寝る所も提供してあげてんだよ」などの暴言も浴びせ、威圧していたという。

こうした団体が蔓延する要因は、行政セーフティーネットの脆弱さにある。特に埼玉県ではホームレスの受け入れ態勢が整わず、民間が運営する「宿泊所」を受け皿としなければならない現状があった。問題となっているような団体は、公的な支援施設が殆ど無い都道府県を狙い定めて施設を設置している[3]

関連書籍・参考文献

脚注

  1. フルキャスト 平野岳史(ひらの・たけひと)社長 NHK総合経済羅針盤』2006年7月16日放送回
  2. テレビ朝日系列『スーパーモーニング』2008年4月28日放送回や、読売テレビ日本テレビ情報ライブ ミヤネ屋』2008年5月13日放送回他多数
  3. 3.0 3.1 NHK総合クローズアップ現代』2008年11月4日放送回「援助か搾取か “貧困ビジネス”」
  4. 公共住宅 EUなどでは?しんぶん赤旗』2006年6月15日付
  5. NPO法人自立生活サポートセンター・もやい』他、「住宅セーフティネットの確立を求める緊急アピール」2008年12月

関連項目

批判者

外部リンク